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1月20日の名古屋市公会堂を皮切りに、9都市10公演にわたって開催された〈ハナレグミ Tour What are you looking for〉。昨年8月に発表されたアルバム『What are you looking for』のレコーディングにも参加した菅沼雄太(ドラム)、真船勝博(ベース)、Yossy(キーボード)、icchie(トロンボーン/トランペット)、武嶋聡(サックス)によって構成されたバンドとともに各地を回ったツアーから、ここでは東京2デイズ公演の1日目にあたる3月5日(土)NHKホールで行われたライブの模様を振り返る。

 ステージの中央に置かれたポータブルプレーヤーからはアナログレコードが流れ、その後ろには昨年秋の弾き語りツアーも一緒に回ってきた相棒である、オリジナルの多面体スピーカーも設置されている。舞台奥には乱反射する光の筋のようにランダムに交差する多数の白い平面ゴムがステージセットとして組まれ、床面にはアルバム『What are you looking for』のアートワークをモチーフにしたカラフルな幾何学模様の絨毯が描かれている。BGMの軽やかな足取りで登場した永積 崇とメンバーたち。揃いの白いシャツにも、アートワークとリンクするように模様が描かれている。以前インタビューした時に永積は「自分の音楽はCDを出して、ツアーを廻ることでやっと完成する」と発言していたが、その想いはセットや衣装などの細部にも表れていた。

「大事な土曜日をありがとう。思い切り楽しんでいってちょーだい!」と挨拶すると、アルバムの1曲目に収録されたインスト曲「Overnight trip to Chaing Mai」でライブがスタート。大太鼓やピアニカなども取り入れたエキゾチックなバンド・アレンジで、まるで冒険映画のテーマ曲のように壮大に幕を開けると、アシャのカバー「360°」を続けて披露。Yossyの奏でるエレクトリックピアノの音色が印象的な「レター」では、永積が「今日ここはお前たちの場所だ、いくらでも騒いでいいぜ!」と叫び、心地良いミッドグルーヴに客席が揺れはじめる。スライ・ストーンあたりを彷彿させるファンキーなアンサンブルによる「大安」に続き、アルバム収録曲「フリーダムライダー」ではエフェクティブなアプローチも組み込んでみたりとカラフルなサウンドで魅せていくハナレグミ。リズム&ブルース色を強く打ち出した選曲で、序盤から会場は大いに盛り上がる。

 永積がバンジョーギターを抱えて歌う「金平糖」では、会場のあちこちにいた子供たちも一緒に歌いはじめ、なごやかな空気に包まれる。オルガンの音色でさらにエモーショナルに胸に迫る「あいまいにあまい愛のまにまに」では、テンポがあがりゴスペル調に展開する終盤で大きなシンガロングが巻き起こり、会場全体がひとつになった瞬間であった。

 今回のツアーは永積を入れて6名の編成で回ってきたが、楽曲ごとにメンバーそれぞれの担当以外の楽器に持ち替えてはアレンジに彩りを添えていったりと、随所で少数精鋭ぶりを発揮。とくに中盤、メンバー全員がステージ中央に集まるスモール・コンボで演奏していくパートでは、アコースティック主体のアレンジによるロックステディ「旅に出ると」、メトロノームがメインでリズムを刻む「ぼくはぼくでいるのが」など、遊び心に富んだアレンジで聴かせていく。中でもアフリカ音楽の要素を前面に打ち出した「11DANDY」では、曲に進むにつれシンセの音色やダブ的なサウンド・エフェクトが飛び交う雄大なグルーヴへと展開。「春なんか待ってられねぇよ、一気に夏だぜ!」という永積のシャウトそのままに、熱気あふれるダンスフロアへと化していった。

 カオティックな盛り上がりをクールダウンさせるように、永積がステージ上に一人残り弾き語りコーナーへ移ると、YO-KINGとの制作秘話で笑いを誘いつつ、しっとりと「祝福」を披露。さらにボブ・マーリィ「No Woman No Cry」の一節を挟んで「光と影」をギター1本で歌いあげると、会場を埋め尽くすオーディエンスたちも息を飲むように聞き入る。

 アルバム『What are you looking for』リリース時のオフィシャル・インタビューでも永積は、「究極的には、僕は聴く人を一人にしたい。ライヴを観に来てワーッって楽しんでるんだけど、ある瞬間にものすごく孤独になるような。そういうエッジを立たせたいって思いながら、音楽を作ってる」と語っていたが、朗らかに楽しく踊ったナンバーあとに、メランコリックな静寂がふと訪れるように素晴らしいバラードを聴かせていくハナレグミのライブを観ていると、心の中に眠るさまざまな感情が揺り起こされていく。舞台袖に下がっていたメンバーが戻り演奏されたのは「家族の風景」。Yossyが奏でるオルガンと夕焼けのようなオレンジ色の照明がいつも以上に郷愁を感じさせるこの曲を聴きながら、今日ここに集まった3500人の人たちも同じように、それぞれの「家族の風景」を脳裏に浮かべながら聴いているのだろうと思うとなんとも感慨深く響いてくるのと同時に、「祝福」で歌われる〈究極 孤独 幸福〉というフレーズの意味をあらためて嚙みしめたくなる。

 じっくり聴かせた後は、ラストまで一気に駆け抜ける。ハッピーでいてちょっとほろ苦いロックステディ「愛にメロディ」にはじまり、アルバム収録のファンキーなソウル・チューン「無印良人」ではミラーボールが回る中、客席も思い思いに踊りだす。そして「今からこの場所をオアシスに変えるぜ!」とシャウトして披露したのは、前作アルバムの表題曲「オアシス」。実はこの「オアシス」がきっかけとなり、アルバム『What are you looking for』のテーマや、ジャケットのイラスト、アートワークのコンセプトにつながっていったという大切な一曲だ。ギター、トランペット、サックスとソロを回しながら、延々と続くような熱狂的なグルーヴでこの日の最高潮へと誘っていく。熱気あふれる高いテンションのまま、人気曲「明日天気になれ」へ。「会場に来てくれたみんなが(ハナレグミの)メンバーです」という永積の言葉通り、ステージ上のミュージシャンたちも客席を埋め尽くすオーディエンス全員で大合唱し本編は終了した。

 鳴り止まないアンコールに応えて、再び登場したメンバーたち。来てくれた観客に向けて感謝の気持ちに加えて、アルバム『What are you looking for』について語りはじめる永積。「自分の場合はCDを作っただけではアルバムは完成しない。こうしてライブで演奏して、お客さんのみんなとセッションすることで初めてアルバムが形になると思ってる。今日めでたくアルバムが完成しました!」と想いを述べると、アルバムのリード曲でもある野田洋次郎作詞・曲のナンバー「おあいこ」を披露。弾き語りツアーではエレキギター1本でエフェクティヴなサウンド処理も駆使しながら深遠な世界を描いていたが、今回のライブでは、その時の演奏と違うのはもちろん、アルバム収録のバージョンともまた一味違った、激しい感情のうねりを感じさせるようなアレンジは、間違いなくこの日のクライマックスとなった。

 「おあいこ」の深い余韻に包まれる中、永積が「だがしかし、お前たちを帰したくない!」と叫ぶと、アルバムでも最後に収録されたジャンプ・ブルース「逃避行」で、NHKホールの大舞台をにぎやかに締めくくる。すると今度はオーディエンスのほうから「だがしかし」と懇願するようにダブルアンコールが起こる。その大きな歓声に引き戻されるように、アコースティックギターを抱えて一人ステージに戻ってきた永積は、ボーナストラック的に「いいぜ」を披露。みんなで会話をするように「いいぜ」と合唱し、笑顔あふれる空間を作った永積は「どうせこのあと居酒屋にでも行くんだろ? もう君たちの好きにしたらいいぜ」と最後に大きな笑いを誘う。そのままスムーズに帰ろうとした永積だったが「だがしかし」。実は最後にステージ上のポータブルプレーヤーでレコードをかけて、お客さんを送り出す音楽を流すというミッションが残っていた。照れくさそうにステージに戻りつつ、自宅から持ち込んだLPの束の中から選んだのは、ポール・サイモン「Still Crazy After All These Years(邦題:時の流れに)」。永積が生まれた翌年に発表された同名アルバムに収録された1曲で、永積も大好きなナンバーだという。レコードに針を落とすと、レコードに合わせて気持ちよさそうに歌いはじめる。思いがけないサプライズに客席からも大きな拍手が起こる中、2時間半近くに及ぶライブは幕を下ろした。

終演後の帰り道、オフィシャル・インタビューで永積が語ってくれた、こんな言葉を思い出した。

「自分にとっての音楽っていうのは、自己を追究するための音楽じゃなく、その瞬間瞬間で反応していく音楽なんだろうね。その場所でどういう気持ちで同じ言葉を発するのかっていうことを大事にして、僕は音楽をやりたいんだなって思う」(ライター=宮内 健)


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