4年ぶりとなるニュー・アルバム『What are you looking for』をリリースした、ハナレグミ。新作発表後初のツアーとなる〈弾きが旅ばっ旅~2015〉は、8月から全国各地14ヶ所で弾き語りライブを展開。各地ともソールド・アウトの盛況をみせた。
 ツアー・タイトルの〈弾きが旅ばっ旅〉とは〈行き当たりばったり〉をもじったフレーズだが、たしかにこの弾き語りツアーは、行き当たりばったりのハプニング性を永積自身が楽しんでいたようなツアーだった。お寺やカフェ、酒蔵、植物園など、毎回異なるシチュエーションの会場に到着してからステージの位置や座席の並べ方、音響システムの鳴らし方を永積も一緒になって考え、本番がはじまってからも演奏する曲をその場で決めながらライブを進めていったものだという。筆者も岡山・ルネスホールと尾道・浄泉寺でのライブを目撃することができたが、お客さんが車座になって360度ぐるりと囲む真ん中で永積がギター1本を抱えて歌うというスタイルは共通していたものの、会場自体のシチュエーションや音の鳴り、時折遠くに聞こえる街の生活音など様々な要素が影響しあい、まったく印象の違うステージを見せてくれた。
 そんな充実のツアーを締めくくる東京・大阪での4公演。〈ホール篇〉と銘打った東京公演は、新大久保・東京グローブ座にて開催された。会場の都合もあって、他の公演のように360度を観客が車座に囲むようにはならなかったが、張り出し舞台と三階席まである円形空間が特徴である劇場の特性を活かして、観客がステージを立体的に包み込むようなスタイルとなった。

 東京・2日目。ステージ上には他の会場と同様に、ラグマットの上に特製のサイコロ型多面体スピーカーシステム、数本のギター、そしてオレンジ色のシェードランプが配置された。まるで永積の部屋を再現したかのようなステージの右手には何枚かのアナログレコードとポータブルプレーヤーが置かれ、33回転で回るターンテーブルから開場時のBGMが鳴らされた。ジョナサン・リッチマンが流れる中、ステージ袖から永積が踊りながら登場。大きな拍手で迎えられると「よく来てくれました」と一礼し、アコースティックギターを爪弾きだす。『What are you looking for』の1曲目に収録されたYO-KING詞曲による「祝福」からはじまり、「あいのこども」「男の子と女の子」(くるりカバー)を立て続けに披露すると、ギターの音色やタッチのひとつひとつ、そしてあたたかな歌声の微細な表現をすべて聞き漏らしたくないという感じで、満員のオーディエンスがじっくりと聴き入る。ちょっとカタい空気を解きほぐすように歌いはじめたのが「音タイム」。客席からは自然と口ずさむ声も漏れてきて、いよいよハナレグミのライブが本格的にはじまったという感じだ。

 「音タイム」を歌い終えると、この曲にまつわる話としてモロッコへの旅で起こったエピソードを披露する永積。一人旅の自由な感覚のように、ふらっとあちこちに話が脱線しながらも、最後には大爆笑を巻き起こすオチが(その内容については、いつかどこかの会場のMCでばったりと出会ってほしい)。ちょっと笑いすぎて場がザワザワした中で、また雰囲気を変えるように「きみはぼくのともだち」「そして僕は途方にくれる」(大沢誉志幸カバー)をしっとりと聴かせる。ギター1本と歌声だけで自在に空気を支配していく腕は、今回のツアーでさらに磨きがかかったようだ。「あいまいにあまい愛のまにまに」はゆったりとしたタッチではじまりながらも、最後はコール&レスポンスで盛り上がり。その熱をキープしたまま「まだ声が出せるかい?」と「明日天気になれ」で、会場中をひとつにして1stステージが終了した。
 10分ほどの休憩ののちに2ndステージがはじまると、ステージ中央の椅子に腰掛け、まるで途中になった友達との会話を続けるようにまったりとしたトークを挟んで披露したのは、キリンジのカバー「エイリアンズ」。サンプラーやエフェクターを駆使しながら、エレキギター1本でアブストラクトな音像を描く永積。エンジニアとの息の合ったダブ的な音響効果も相まって生まれる深遠な音世界に、会場じゅうの心がひとつ残らず引きずり込まれていく。足元にあるディレイのつまみを絞って、ギターの残響音が遠くへと消えゆくと、息を呑むような静寂が一瞬訪れて、大きな拍手が沸き起こった。

 その歓声に永積は少し照れくさそうな表情を浮かべながら、アコースティックギターに持ち替えると、ガラッと趣を変えて4ビートのアレンジされた「大安」では、合間にスチャダラパーの「今夜はブギーバック」を織り込んだり、トロンボーンの音色を真似たスキャットなども飛び出したりと、カラッと陽気な楽しさを届ける。続いてアコースティック・スウィング調で「プカプカ」(西岡恭蔵カバー)を演奏。大いに沸くオーディエンスに釣られて楽しくなってしまったのか、思い出したかのようにメキシコ旅行で起きたハプニング混じりのエピソードを開陳する永積。この話題でもまた大爆笑を呼んでいた(長くなるので割愛するが、この話にもどこかのライブ会場で出会ってほしい)。「PEOPLE GET READY」(カーティス・メイフィールド カバー)、「Don't Think Twice, It's All Right」(ボブ・ディラン カバー、日本語詞:おおはた雄一)を歌い上げると、キセル辻村豪文との共作「ぼくはぼくでいるのが」、アシャの楽曲を永積オリジナルの日本語詞でカバーした「360°」と『What are you looking for』収録曲を立て続けに披露。そして本来はBOSE(スチャラダパー)とAFRAが参加している「Peace Tree」を一人で歌い切ると、いよいよライブも終盤……の前に、またまた楽しくなってしまったのか、沖縄で出会ったおじさんとの強烈なエピソードで、ふたたび会場の爆笑を誘う(崇 永積のすべらない旅話は、どんだけストックがあるのか!)。

 そしてエレキギターにふたたび持ち替え、本編最後の曲として歌われたのは、野田洋次郎(RADWIMPS)が提供した「おあいこ」。胸が張り裂けそうなほどにエモーショナルなこのバラードが、エフェクティブなエレキギターの音色、そしてホールならではのライティング演出を伴って、より直截的に心を突き刺すような歌となった。
 鳴り止まない拍手に応え、ふたたびステージに登場した永積。アンコールに応えて最初に歌ったのは、ニュー・アルバム収録の「いいぜ」。女の子の愛すべき言動を綴っていく粋な小唄を、男性だけでコーラスを一緒に歌おうと提案。野太い「女の子っていいぜ」コールで、会場は大いに沸いた。そしていよいよラストの1曲、「光と影」をじっくりと聴かせてライブは終了。全20曲を歌い上げた永積は感謝を述べた後、観客のみなさんを送り出す曲として、ハリウッド女優でありジャズ歌手としても名を馳せたジュリー・ロンドンのアルバムをレコードプレーヤーに載せた。永積のおじいちゃんから譲り受けたレコードであり「この人のような歌い手になりたい」と思い入れのある一枚に針を落とす。エレガントな音楽が流れる中、まるで気の合う友達と過ごしたような楽しい夕べは幕を下ろした。


ライター宮内健、カメラマン菊池さとし

ツアー写真 番外編

弾きが旅 ばっ旅
~2015 ホール編~
2015/11/01@東京・グローブ座


<1st stage>
祝福
あいのこども
男の子と女の子
音タイム
きみはぼくのともだち
そして僕は途方に暮れる
きのみ
あいまいにあまい愛のまにまに
明日天気になれ


<2nd stage>
エイリアンズ
大安
プカプカ
PEOPLE GET READY
Don't Think Twice, It's All Right
ぼくはぼくでいるのが
360°
Peace Tree
おあいこ

<アンコール>
いいぜ
光と影

top

top