ハナレグミ,ライブレポート

 ライヴを観終えてから数日経ったが、未だ胸の奥に熱い余韻が残っている──ハナレグミ 2018ツアー ど真ん中。6月8日の宇都宮を皮切りに、大阪城音楽堂ワンマンを含む全国14ヶ所を巡ったツアーの追加公演が、8月7日(火)東京・新木場STUDIO COASTにて行われた。


 噴火するボルケーノのイラストが描かれた大きなフラッグが飾られるステージの上に、バンド・メンバーのYOSSY(key)、伊賀航(b)、菅沼雄太(dr)、石井マサユキ(g)、そして永積 崇が登場すると、会場は大きな拍手に包まれる。「ようこそ!あー、うれしいな」と破顔一笑した永積は、1曲目に「ぼくはぼくでいるのが」を選んだ。ゆったりとしたテンポのこの曲を演奏した途端、2000人以上を収容するこのライヴハウスが一瞬にして「永積の部屋」に変わる。ハナレグミのステージは数え切れないほど観てきているが、永積が声を発すると会場の空気が一変して、いつもゾクッとさせられる。その感覚を味わいたくて、何度も何度もハナレグミのライヴへ足を運んでしまうのだ。昨年の『SHINJITERU』ツアーから参加しているギタリスト・石井マサユキの流麗なオブリガードに導かれ、永積も嬉しそうにエレキギターを弾く。このバンドの仕上がり具合に、今夜のライヴも間違いなく充実したものになるだろうと確信した。

 60~70年代のハイ・サウンドを彷彿させる「ブルーベリーガム」、ラップスティールの音色が心地よいフォーキーな「My California」と、ミディアム・テンポの楽曲を立て続けに披露して、オーディエンスも気持ちもすっかりほぐれてリラックスしたところで、コミカルなファンク・チューン「無印良人」を投入。バンドが放つ粘っこいグルーヴに煽られるように、永積もコテコテのギターソロを聴かせ、会場の熱気がグンと上げる。フロアのあちこちから、「タカシーーー!」と掛け声がかかる中(今回は野太い男性の声が多かった)、「今日は“立秋”。秋のはじまりに心の片隅がシクシクきてる人もいるんじゃないかな。しかし!平日ど真ん中にも関わらずよく来てくれた。こんな日を“大安”と呼ばずになんと呼ぶ?」と語り、「大安」を披露。この「大安」での転がるようなピアノソロ。「あいまいにあまい愛のまにまに」での情感あふれるオルガン。そして「音タイム」での水面に乱反射する朝の光のような美しいアルペジオと、この3曲ではYOSSYによる鍵盤のプレイがとにかく光っていた。
 一方、菅沼のドラムと伊賀のベースによるリズムの素晴らしさをあらためて思い知らされたのは、続く2曲。大らかなグルーヴに包まれるような「レター」。そして「家族の風景」では、ダブルベースのやさしくも繊細なプレイと、少し後ろに引きずるようなドラムが生み出す、いびつだけれど妙に心地よいリズムがシンプルな楽曲に新たな視点を与えていた。

 パラゴンズあたりを思い出させるロックステディの「旅に出ると」では、トースティングの合間に「上を向いて歩こう」を織り込んでみたりと、いつもながらに永積の自由さが炸裂。ツアーごとに大胆な変化が見られるのが個人的な楽しみである「フリーダムライダー」では、緩急自在に印象を変えていくバンドのアレンジ力の凄まじさに圧倒された。
 ライヴも終盤に差し掛かったところで、ピアノに座った永積は、大阪城音楽堂でのライヴの前日に太陽の塔の内部公開へ参加してきたことをMCで話しはじめた。内側から見た太陽の塔もよかったが、外から近くでみた太陽の塔に圧倒されたのだといい、「その感動は自分でもなんだかわからない。嬉しい、悲しい、くやしいでもない。(人は)そういう言葉にならないものをあやつってる。声に出さずに、もがいて、“間”に込める。それは僕らの才能でもあって。そういうものを手放さないように大事にしたいし、そういった曖昧さにこそたくさんの救いがある。そんな時に、音楽は心の深呼吸になる」と語り、永積自身のピアノ演奏により「深呼吸」を披露した。そして続く「Spark」では、照明を落として暗闇の中に永積の大きな影だけが浮かび上がるという演出。歌う永積も、聴き入るオーディエンスも、一人一人が自分の心を見つめるような、そんな時間が流れた。

 束の間の静寂ののち、場内には永積が操るアナログシンセの音色が飛び交い、『SHINJITERU』収録の「プライマルダンサー」を披露。タイトなグルーヴにのせて演奏されるスケール感の大きなギターソロも印象的だった。ここから場内はダンスフロアへと変貌。軽妙なスカ・ナンバー「太陽の月」を挟んで、「オアシス」の演奏がはじまる。「君たちがそばにいる 夢のようだよ ここはオアシス」と永積が歌詞を変えて熱唱すると、フロアは大きな盛り上がりをみせる。会場じゅうでラララの大合唱が起こる中、「日本語じゃない言葉で交信しようぜ!」と永積が呼びかけると、会場のあちこちからはさまざまな奇声が叫ばれるというカオスな展開に。まさに感情を爆発させるよう歓声をあげ、力いっぱいハンドクラップをし、思いのままに踊り跳ねる。リミッターを振り切ったようなオーディエンスの凄まじい反応を見て、永積はさらに大きな声を振り絞って歌い上げる──ここでやっと、今回のツアーの「ど真ん中」というタイトル、そしてステージに掲げられていた、噴火するボルケーノのイラストの真意を理解できたような気がした。

 「まだいけそうかい?」と永積が語ると、高いテンションのまま「明日天気になれ」へ突入。「秋のはじまりが 胸高まれば~」と立秋らしく歌詞も変えて歌われたこの曲で、バンド・メンバー全員が感情丸出しの演奏を聴かせる。中でも、いつもジェントルな印象の石井によるアツいギターソロは興奮モノだった。「どいつもこいつも騒げーーー!」という永積の煽りに、観客がさらなる大歓声で応え、その声でバンド演奏の勢いも加速していくという、最高にハッピーなエネルギー循環サイクルが生み出され、ライヴ本編は終了した。

 メンバーがツアーTシャツに着替えて再びステージに登場すると、アンコールへ。「STUDIO COASTを瞬間にしてスナックに変えるから!」と演奏されたのは、おなじみ「オリビアを聴きながら」のスカ・アレンジによるカヴァー。最初のフレーズを歌うとフロアからも歓声が上がったが、まだまだ足りない!と、レゲエ現場でいうところの「カマゲン」で演奏を一旦止め、再び最初から演奏をし直す。「もっと社長にゴマすってよ!」と煽ると、永積が1フレーズを歌うごとに黄色い歓声が上がるという、最高にバカバカしいやりとりが繰り広げられた。そして永積が社長になりきって「君たちも歌ったらどうだい?」と呼びかけると、オーディエンスたちは会場全体が地響きするほどの大声をあげてサビを熱唱するという、今までに体験したことのないような大盛り上がりとなった。

 フロアからは社長コールも起こる中、「好き勝手やってる感じがいいね」と永積が笑顔で語ると、こっちも好き勝手やるぞ!とばかりに、さらにバンドとともに「光と影」を披露。キーボードにYOSSYと石井が並び、キャンドルライトのような淡い光の中で永積がじっくりと歌い上げるこの曲は、先ほどまでの熱狂とは打って変わった、再び一人一人の「個」に訴えかけるような演奏だ。

 そして「ここからが長いんだよ(笑)」と、最終日ならではのスペシャルとして、永積がアコースティックギターを抱えて弾き語りを披露。「きみはぼくのともだち」、そして「サヨナラCOLOR」をしっとりとした情感で歌い上げて、「2018ツアー ど真ん中」を締めくくったのだった。

 それにしても、今回のツアーファイナルで目撃した、あの凄まじい盛り上がり。あんな光景を生み出してしまった永積崇、そして今回のバンド・メンバーたちは、どれだけ称賛の言葉を並べても足りないぐらいに素晴らしかった。しかし彼らは、いつかはきっとこれ以上のライヴを見せてくれることだろう──生粋のライヴ・ミュージシャンたちに、もう一度、心からの拍手を。

photo gallery

set list

M01 ぼくはぼくでいるのが
M02 ブルーベリーガム
M03 My California
M04 無印良人
M05 大安
M06 あいまいにあまい愛のまにまに
M07 音タイム
M08 レター
M09 家族の風景
M10 旅に出ると
M11 フリーダムライダー
M12 深呼吸
M13 SPARK
M14 Primal Dancer
M15 太陽の月
M16 オアシス
M17 明日天気になれ


ENC オリビアを聴きながら
ENC 光と影
ENC きみはぼくのともだち
ENC サヨナラCOLOR

band member

YOSSY(key)
伊賀航(b)
菅沼雄太(dr)
石井マサユキ(g)

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