スペシャル対談

text:宮内健

2020年2月に開催される、ハナレグミ 東阪ワンマンホールツアー「THE MOMENT」。東京スカパラダイスオーケストラがバックを務める“HORN NIGHT”と、LITTLE CREATURESの鈴木正人率いるバンドに美央ストリングスを迎えた“STRINGS NIGHT”という異なる編成で挑むこのワンマンは、ハナレグミのオリジナル曲はもちろん、永積 崇がこれまでに影響を受けた名曲の数々が織り交ぜられたセットリストを、信頼するアレンジャーに編曲を委ね、自身はシンガーに徹して歌い切るという、これまでにないチャレンジングな内容だ。
ハナレグミのキャリアを推し進めてきた音楽的な衝動、そして、その活動の中で音楽から授かった感動の瞬間を、オーディエンスと純粋に分かち合おうというツアー「THE MOMENT」のコンセプトにちなんで、音楽からもたらされたそれぞれの“MOMENT”とは何か、ハナレグミを近いところから応援し共に音楽活動を続けてきた親友たちと語り合う……予定なのだが、主役である永積 崇が取材開始時間を大幅に遅刻するという、波乱含みのスタートに。

──今回のハナレグミのワンマンツアーは、音楽的な初期衝動や、音楽から受けた感動の瞬間をテーマに選んでいった曲を、シンガーに徹して歌っていくというものになるそうです。
池田:タカシは昔からずっと言ってるよね、初期衝動とか(笑)。今回に限らず、ハナレグミの永遠のテーマだよ。
──たしかに(笑)。三人ともそれぞれに永積くんとバンドやユニットで活動したり、ツアーを回ったりと共演してますが、一緒にやってみて感じる、ハナレグミのすごい部分ってなんですか?
ユザーン:いい感じにうまくまとめよう、みたいな気持ちが基本的に全然ないのはすごいよね。今年の9月にNew Acoustic Campに出たんだけど、1日しかないリハの前日に突然「持ち時間40分、全部新曲をやる!」って言い出して。でも、その時点でまだ一曲も出来上がってないの。
原田:えっ!? これから作ろうってこと?
ユザーン:「歌詞だけはあるんだ」って。でも、これからやったところで40分ぶんは完成しないし、お客さんもやっぱり「家族の風景」とかも聴きたいじゃない?だから「うん、それもいいよね!だけど、もうちょっと考えようか」って話し合って、新曲は3曲まで減らして(笑)。
原田:ユザーンは冷静だなぁ。
──永積くんは、なんというか自由奔放といいますか。
池田:自由奔放って、だいぶ良い言い方だけど(笑)。
ユザーン:何が自由奔放かって、まず、今来てないところじゃない?
池田:ホントそうだよ!俺は何がイヤかって、みんなが「まぁ、しょうがない」みたいな空気になってるのがイヤなの。
原田:あぁ~。「タカシくんだから、しょうがない」みたいな!?
池田:じゃあ、普段真面目にやってる人たちはどうなの? ってことですよ。
原田・ユザーン:(爆笑)

──たしかに池ちゃんは、今日も取材現場に一番乗りで到着してました。
池田:俺みたいに真面目な人が、ちょっと遅れるだけで怒られるのは理不尽だよ。
ラフィン社長:今、タカシからメールが入って、「意外と俺がいない方が、好きに話せていいのかも?」って。
池田:ほら、こういうこと言うんだよ!で、そのくせ他人の遅刻には人一倍怒るの。
原田:(笑)でも、私はタカシくんが奔放だとはあまり思っていなくて、どちらかというと、センシティブな印象のほうが強いかも。他の人が一歩で進めるようなところを、立ち止まったり、何度も戻ったり、違う行き方してみたり。
池田:でも、そういうタイプだからこそ、解放される瞬間が“MOMENT”なんじゃない?
原田:あー!確かに。そういう時の爆発力が、とてつもないよね。いざステージに上がってお客さんの前で声を出した瞬間の振り切り具合が。普段は結構膝を抱えてるようなところもあったりするけど。
ユザーン:というか、あそこまであからさまに膝を抱える人もいないよね(笑)。
──デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのジャケみたいな(笑)。ハナレグミのライヴでも、大いに盛り上がった直後に、すとーんと孤独を感じさせる瞬間が訪れたり、そうかと思えばまた観客を巻き込む渦のような力を感じさせる瞬間が現れたりと、ひとつのステージの中でも振れ幅が大きいですよね。
原田:観てる方はいろんな気持ちにさせられますよね。ジェットコースターみたいに。泣いたり笑ったり、ホッとしたり。

(ここでドアが開いて、永積がようやく登場)

永積:あーー、すいません!
池田:ちょっと!予定より30分も遅れてるよ!
原田:(笑)この集まりに来るの、やっぱりイヤだよね?
永積:いやいや、そんなことないけど(笑)。うっかり、今日だと忘れてて。いやぁ、あぶなかった~。
ユザーン:あのさ「あぶなかった~」って、時間にギリギリ間に合った人のセリフだからね!
一同:(爆笑)
──ようやく全員揃ったところで(笑)、あらためて永積くんと一緒に演奏することの楽しさは?
ユザーン:さっきも言ったけど、まとまろうとしないところ。毎回新鮮な感動を、共演者にも与えてくれる。
池田:そもそも、なんでニューアコでやる曲を、全部新曲にしようとしたの?
永積:それはね、いつかやりたいってずっと考えてたことなの。それこそ1年ぐらい前からアイデアはあって。
ユザーン:だったら、もうちょっと早く言ってよ(笑)。
永積:(笑)ただ、そこもワガママなんだけど、ちょっと用意されたくないっていうのもあってさ。池ちゃんもそうだと思うけど、自分が無茶振りをすることで、相手が動揺するじゃない? それを見て、自分も一緒になって動揺したいっていうかさ。そこで新たな境地が開けるんじゃないかなって。
池田:なるほどね。やっぱり一回目って面白いんだよ。演奏に限らず、なんでも。その究極みたいなものだよね。瞬発的に出るものって、やっぱり爆発力があるから。
永積:自分のライヴも、一時期はツアーごとにバンド編成を替えてたわけ。それは曲に対して、演奏するみんなの熱量が大事になってくるから、あんまり慣れていきたくないっていうのがあって。自分なりに調整してたところはあったかな。
池田:自分以外の誰かが加わることで、起爆するのも狙ってるでしょ?だからユザーンに無茶振りしたのも、自分だけではできない部分を爆発させたいっていうのはあるんだろうね。
永積:うん。だからユザーンのことは、めちゃめちゃ信頼してる!
池田:またユザーンは、なんとかなるだろうって思わせる力があるんだよね。それは俺もすごくわかる。
ユザーン:そんなに信頼されても困るよ(笑)。
──レキシの「Takeda'」もまさにそんな曲でしたもんね。
池田:そうそう、自分の朗読に合わせて即興で叩いてもらって。本当の一発録り(笑)。ユザーンは頼り甲斐あるから。頼りGUY!
永積:ある意味「全曲新曲だなんて、頭おかしいんじゃないの?」っていう返答をもらうことでも、ある意味完結してるのよ。それが実際に形にならなくても、投げかけをすればユザーンなりの返答が返ってくること自体がセッションでもあるから。
ユザーン:ラフィンの人たち、みんなどうかしてるよ!

原田:(笑)おもしろいなぁ。私は、ハナレグミのファーストアルバム『音タイム』のレコーディングとツアーに参加して、その時はまだスーパーバタードッグとしての活動も並行していて。その後、バンド活動を休止してハナレグミで本格的に活動を始めてから、ohana(オオヤユウスケ、永積、原田の3人によるユニット)をやって。なんて言うんだろう、タカシくんにとって常にメインで活動してる場所はしっかりあって、それとは別の何か遊びじゃないけど、もう一つ別のプロジェクトで一緒になることが多いんですよね。
永積:そうだったね。
原田:あと個人的には、タカシくんがスカパラとかフィシュマンズとかボ・ガンボスでヴォーカルとして参加した時に、ハンドマイクで歌う感じもすごく好きなんですよね。自分自身の軸になるところでは産みの苦しみとか、考えることが日々あると思うんだけど、新しいことを始めたり、どこかに出かけて行ったり、そういう中でのわくわくとか、爆発をたくさん見せてもらってる。
──そういう時の永積くんは、のびのびしてる感じなんですか?
原田:なんか、中学生っぽい時もあったり……。
永積:あははは。
原田:オオヤくんと、廊下の隅でこっそりエッチな本見てる、みたいな(笑)。そういう遊びと、めちゃくちゃ真剣にやってる感じが、いつも混ざってる。
永積:なんだろうね。こないだ思ったのは、曲が生まれたその瞬間にいつも居続けたいっていうか……。その感覚に近い状態っていうのは、その曲を一番上手く表現できてて、自分でも納得いってる時ってことなんだよね。だから、いつもそこに意識があるのかもしれない。それは原曲と同じアレンジじゃなくていいんだよね。たとえば、ユザーンとライヴをやってる時なら、ステージ上でユザーンのフレーズが熱くなってきた時に、自分もジャストでその波にのれた瞬間。そういうのって、曲が生まれた瞬間の感覚に近くて、初めてその曲を歌った時のような気分になる。いつもそういう意識で、その場所に立つってことにしか、自分は頭にないのかもしれないね。とくにライヴに関しては。
──今までの話を聞いていると、今回のツアーでアレンジを外部に任せようというアイデアが生まれてきたのもわかる気がします。
永積:さっき郁子も言ってたけど、自分がいろんなバンドに客演してはハンドマイクで歌ってる瞬間っていうのも、ハナレグミの活動で大切にしてる大きなポイントで。最近だと、横浜アリーナであったレキシのライヴで歌った時、本当に気持ちよくて。スカパラでも客演で呼んでもらうことが多かったし。そういう気持ちよさに、シンプルに向き合うだけのライヴをやれたらいいなって。そこから、また新しい感覚が芽生えるのかなって。
──何年か前のハナレグミのライヴで、カラオケスナックのステージセットを組んで歌謡曲のカヴァーをたくさん歌ったことがありましたよね。あの時もめちゃくちゃ楽しそうに歌ってる印象が残ってるんだけど、ああいうライヴに近いんですかね?
永積:いや、アレともまた違うかな。今回はもっとストレートかも。15年ぐらい前、国立の小さなライブハウスでハナレグミとして初めてライヴをやった時、井上陽水さんとか、自分が影響を受けた曲を歌ったんだよね。今回はそういう感じもいいかなって。オーディエンスを楽しませたいと思う気持ちも勿論あるけど、どっちかっていうと曲に自分が入っていくというか。

──もう一度、自分の音楽的ルーツを見つめ直すような?
永積:まぁ、そこまで堅苦しくもないんだけどね(笑)。あと、ストリングスの上で歌ってみたいって願望もあって。
池田:ツアーでがっつりストリングスが入ったりは、これまでにもなかったんだっけ?
永積:うん、なかった。冨田恵一さんの曲(冨田ラボ「眠りの森」)なんかも、自分のツアーではなかなか歌えないけど、ストリングスが入ると歌えるしね。あとは松本隆さんのトリビュート・アルバム『風街であひませう』でカヴァーしたラッツ&スターの「Tシャツに口紅」(作詞・松本隆、作曲・大瀧詠一)みたいな曲も歌えるかなって。
池田:たとえばオリジナルの曲でも、自分のバンドでアレンジを新たに変えますっていっても、すでにいろんなアイデアを試してはいるしね。外部にアレンジを任せてみるとなると、芯はそのままでありながらも、大胆に印象が変わるような感じがあるかもね。
永積:だから結構、丸腰で挑むような感じかなって思う。とくにストリングスに関してはそうかな。自分でも、そういうことがやっと出来るようになってきたって気がしてて。この何年か、レコーディングでも歌について見つめ直すことが多くなった。以前だったら勢いでOK!って感じだったのが、最近は「この曲はどういう曲なのかな」ってことをじっくり考えるんだよね。そうすると、自分の声で歌ってる中で立ち上がってくるものがあるような気がしてて。この「THE MOMENT」のツアーでは、そういうボーカリストとしての部分にフォーカスを絞って挑んでみようかなって思ってる。
──ライヴでやる曲はもう決まってるんですか?
永積:いや、まだ考えてるところ。みんな何かいいアイデアあったらよろしく(笑)。
ユザーン:ストリングスでやるんだったら、「ナタリー」とかいいんじゃない?
永積:あー、いいね!
原田:あ!「ステルトミチル」!弦で聴いてみたい。
永積:いいねぇ。「おあいこ」とかもそうだけど、ハナレグミのオリジナルでもストリングスの入ったアレンジでどう変化するかが楽しみな曲もたくさんあって。そういうのと、自分が影響を受けたポール・サイモンとかボブ・マーリィの曲なんかが、一線上に並べられたらいいなって思ってる。
ユザーン:タカシくん、ポール・サイモンに影響受けてるの?俺はサイモン&ガーファンクルしか知らないんだけど。
永積:うん。ここ数年はとくにね。ソロが最高にカッコいい。
原田:アフリカ音楽にオマージュしたアルバム、ハナレグミでもヒントにしてたよね。
ユザーン:へぇ~。ポール・サイモンに影響を受けてるから、自分のまわりにアート・ガーファンクルみたいな人を集めてるってわけではない?
永積:がはははは(笑)。アフロね。
池田:おい!ガーファンクル枠か、俺は?
ユザーン:できればサイモン枠でありたいよね(笑)。

──みなさん世代がほぼ同じですが、共通して好きな音楽ってあるんですかね?
永積:マイケル・ジャクソンなんかはどう?
池田:うーん、俺はそこまでちゃんと聴いたことないかな。
ユザーン:俺はマイケル・ジャクソン好きだけどね。来日公演観に行った?
永積:行ったよ!DANGEROUSツアー。
ユザーン:俺も東京ドームで観た。マイケルが棺から出てくるシーンがやたら印象深いけど、カッコよかったな。タカシくんと池ちゃんは、ファンクが好きって共通点があるよね。
池田:ファンクと言ってもいろいろあって、俺らが共通してたのはPファンクだけどね。
永積:そのPファンクの中でも、違いがあるしね。
池田:あと共通点ってところでは、俺も玉置浩二さんとか好きだし。スーパーバタードッグの中でざっくり分けると、俺とタカシが歌モノ寄りかな。
永積:俺も池ちゃんもフォーク好きだけど、池ちゃんはさだまさしさん側で、俺は陽水さん側だから。
──郁子さんと永積くんの音楽的な共通点は?
原田:私は、ファンクっていうのはスーパーバタードッグのみんなに会うまで知らなかったんですけど、ダニー・ハザウェイのライヴとか、ロバータ・フラックは、大好きでよく聴いてて。歌う人の声とかライブ感についてタカシくんとよく話したような記憶があります。
──10代後半から20代前半をともに過ごした仲間としては、実体験として影響を与えあってた部分も大きいでしょうね。
原田:うん。その頃って、みんなお金がないから、一枚レコードがあったら、貸し借りする。 「これ好きそうだよ?」って薦めたりね。
──で、その界隈だけで異様に流行しちゃったり。
池田:逆もあるのよ。みんながいいって言ってると、俺もいいって思ってもちょっと言えないみたいな(笑)。でも、たしかにみんなで音楽を共有してたもんね。
原田:スーパーバタードッグだったら竹内くん、クラムボンだったらミトくん、みたいに詳しい人の家に行って、みんなで聴いたり。
──あとは、スーパーバタードッグやクラムボン界隈だと、青山にあったOJAS LOUNGEや真空管みたいな、その当時に遊びに行ってたクラブで吸収したものも多そうですよね。
永積:そういう時間も共に過ごしてるから、聴き方が似てるんだと思う。音楽を情報として蓄積するんじゃなく、実感として聴くタイプなのかも。たとえばダニー・ハザウェイのライヴなんて特にそうだけど、そこに収められてる熱量とかね。イントロが流れた瞬間に、オーディエンスがイェーってなるところにグッときたりね。
原田:そこだけを繰り返して何百回も聴きたい!
永積:そうそう(笑)。Pファンクなんかもそうだけど、16ビートの裏がどうとかより、どうしてこういう音楽が生まれたんだろうって、そっちのほうに感動を覚えることが多かったと思うね。
──ユザーンと永積くんの共通点は?
ユザーン:俺はみんなとちょっと通ってきた道が違うからなぁ。自分が好きなものでタカシくんと共通点を感じたのは、パット・メセニーの『シークレット・ストーリー』。タカシくんの家に行ったら流れてて、すごく好きなんだって言ってて。俺も中学3年生の頃に大好きでずっと聴いてたから、なんだか嬉しかった。
永積:俺がパット・メセニーを知ったきっかけは、ジョニ・ミッチェルのライヴ盤。バックでパット・メセニーが弾いてて、それが当時バイトしてたディスクユニオンの店内でずっと流れたたんだよね。最初は難しいなって思ってたけど、ある日ストンと心に入って、ギターがすごく美しいなって思った。それが入り口だったかな。そもそもユザーンは、タブラやる前にはどんな音楽が好きだったの?
ユザーン:ずっとジャズが好きだった。ヒーローはマイルス・デイヴィスだったんだけど、自分ではギターぐらいしかできないから、ジョー・パスやパット・メセニーを聴くようになったんだよね。
永積・池田・原田:へぇ~。
原田:みんな、自分が最初に観に行ったライヴとか覚えてる?
永積:その前にも何かは観てるんだけど。印象に残ったのはやっぱりマイケルかな。高校2年のときかな。とにかく米粒のように小さくて。ライヴっていいいなって心から感動したものとなると、もっと後かも。それこそ日比谷野音で観た、ボ・ガンボスの解散コンサートとか。
原田:ずっと聴いてきた人を、直に観られるっていうのは大きいよね。
池田:いいなぁ、都会は。
ユザーン:福井には誰も来なかった?
池田:そうだね。チケットもらって初めて観に行ったのは、国生さゆりさんかな。だけど、アイドルとかそんなに興味なかったから。あとは友達のバンドとか、田舎だとそういう次元になってくる。初めて自分たちで観に行こうって思って行ったのは、近田春夫さんのビブラストーンだったと思う。
永積:渋いねぇ。
池田:当時、福井でビブラストーンのコピー・バンドをやってたからメンバーみんなで行ったけど、そのライヴも大阪まで出ないと観られなかったからね。考えてみたら、ライヴをきちんと観に行く以前に、自分たちでバンドやってたわ。
ユザーン:じゃあ、ライヴってどうやればいいかわかってなかった?
池田:そうそう!ビブラストーンを見に行って、こんなに綺麗な音で、CDみたいな感じでやるんだってびっくりしたのを覚えてる。プロってすげえなって思ったね。
ユザーン:俺は小さい頃からクラシックのホールコンサートみたいなのはよく観に行ってて。その中で一番面白かったのは、ドラクエの音楽をN響が演奏したコンサートかな。でも、ミュージシャンが間近の距離でやるのを初めて観たのは、高校2年生の時に南青山のBody & Soulで、渡辺貞夫さんとかジョージ川口さんとか、大御所のジャズメンが演奏しているを観た時に「近いの超楽しい!」って思った。
原田:どんな高校生だよー(笑)。
ユザーン:その時の印象があるから、小さい会場で近い人の前で、一番楽しいところを見せたいって気持ちが大きいのかも。やっぱり近い距離で見たいじゃん。
池田:それがあいちトリエンナーレでやってたやつ(註:「Chilla: 40 Days Drumming」と題し、40日間にわたるタブラの修行を一般公開した)につながるのか(笑)。あの時も、お客さんとめちゃくちゃ近かったもんね。
永積:お客さんとの距離ねぇ。距離が聴き手に影響を及ぼすって、自分がステージに立つようになって、だいぶ経ってから気付くようになったことかもね。
原田:私はね、ダークダックスだったかも。
永積・池田・ユザーン:へぇ~!
原田:後で親に聞いたんだけど、メンバーの一人と手をつないで、駅の改札まで一緒に着いていったんだって。どうやってその状況になったのか覚えてないんだけど(笑)。
ユザーン:それぐらい、めっちゃよかったってことだよね。
池田:いくつぐらいだったの?
原田:小学校に上がる前かな。すごい感動したんだと思う。

──幼少期の頃に聴いてたものって、影響大きいですよね。
永積:そうだね。俺にとってはフォークソングかな、小さい時からの刷り込みが大きいかも。音楽を好きとかどうの気付く前に入ってきた音だから。
原田:タカシくんのルーツには、「ザ・ベストテン」で流れてたような昭和の歌謡曲とかアイドルソングみたいなのは見えないね。
永積:そう、あんまり通ってないんだよね。
ユザーン:郁ちゃんはがっつり通ってるよね。
原田:うん(笑)。
ユザーン:いろんな局面で「心の中の明菜成分」みたいなのが表出してくるもんね。
原田:と思ったら、心の聖子も出てきて(笑)。でも、タカシくんからはそういう話をあんまり聞いたことがないかも。
永積:子供の頃、あまり歌番組を観てなかったんだよね。家のテレビのチャンネル権は父親にあって、全部ナイターになってた。
──ハナレグミが以前からカヴァーしてる、「そして僕は、途方に暮れる」なんかは?
永積:あの曲は、CMで流れてたから。サビの部分がすっごく好きで。
ユザーン:そうか、ナイターの時にもCMは流れてるもんね。
永積:たしかに!でも、実際にそうなのかも。CMソングはすごく印象に残ってる。
──たまに、昔のCMソングとか、アニメの主題歌をふと思い出して、それが頭から離れない時ってありますよね。
池田:俺なんか、曲作りの基盤はそれだよ。ちょっと聴いたらすぐ歌っちゃうような曲。
──15秒で聴き手の心を掴むような。
池田:でも、実際にCMソングを作ろうと思うと難しいだよね。昔、「もしもポテトチップスのCMソングの依頼がきたら」みたいな感じで、自分でお題を決めて曲を作ってたこともあるよ。
永積:何それ!すごいね!
池田:♪おいものお菓子はいろいろあるけど、なにが~好き~、って(笑)。
原田:いい!
ユザーン:そんなにすぐ歌えるぐらい自分のものになってるんだ!ヤバいね(笑)。
池田:曲を作る上でも、そういう感覚って大事だなって。
原田:すごい。そういうところからレキシの曲は生まれてたんだ。
永積:結構、勉強になるね(笑)。
池田:子供の頃に聴いた曲でいうと、俺は「ひらけ!ポンキッキ」のエンディングでかかってた、♪かもめは空を飛ぶよ~、って曲(加橋かつみ「かもめが空を」)が好きだったね。あれを聴くと「あぁ、もう遅刻だな」って思う。
一同:(爆笑)
永積:わかるわ~。もう家を出ないと間に合わないけど、曲の途中で出られないんだよね……なんか、小学生の頃のことを突然思い出したんだけど、話していい?
池田:いいよ(笑)。
永積:夏休みが終わって、二学期がはじまるじゃない?そこで楽しかった夏の思い出を回想するんだよね。好きなシーンを思い出しながら、一人でずっと好きな曲を歌い続けて。そうすると、その曲が起爆装置になって情景とか匂いとか全部が立ち上がってくるんだよね。部屋の中で、それをずっとやってた。
池田・原田・ユザーン:へぇ~!
永積:毎年行ってたのが軽井沢なんだけど、それをやることで「いつでもあの場所に戻れるから大丈夫だ」みたいな感じになるんだよね。
ユザーン:なんだかすごい話だね。
永積:その時に歌うのは、とにかく小さい声じゃないとダメで。小さい声で陽水さんや玉置さんの歌をなぞる。そうすると、声色に景色がのってきて、匂いやみんながいる声も、ガーッと立ち上がってくるんだよね。
原田:今度のツアーで、その時に歌ってた曲もやってほしいよ。
永積:やっぱり陽水さんとかビリーバンバンとかかな。何の曲だったかは、記憶をたぐれば思い出せるだろうけど。その時は、自分の声というよりは、陽水さんとか玉置さんの声になろうとするんだよね。そうすると、自分の中の声と反響して、何かのスイッチが入るのかな。自分の声が大きいと、今現在の自分になっちゃうから。とにかく小さい声で、繰り返し歌うのが大事で。
池田:目的は思い出すことだもんね。
永積:そうそう。今現在にならないようにする。
ユザーン:催眠療法みたいな感じなのかね。
永積:大丈夫かな、この話(笑)。「THE MOMENT」ツアーのステージ上で、「すいません、ちょっと待ってください」って、お客さんの前ではじめちゃったりして。
ユザーン:そうなったらもう、スカパラに帰ってくださいって言うしかない(笑)。
原田:(笑)でも面白いねぇ。そんなに軽井沢が楽しかったのか、現実に戻るのが辛かったのか…。
一同:(爆笑)
永積:(笑)まぁ、自分が歌いはじめることになった、本当に最初の“MOMENT”はそこなのかもしれないね。

photo:n uma(スタヂオ湿地帯)

top

top