恵比寿のイタリアンレストラン『カチャトラ』は20数年の歴史を閉じたのでした。
一番最初の記憶は18年ほど前だと想う、日曜日に行われるサンデーワークショップという
お店でのイベントで弾き語りで参加させてもらった。
たしか 矢野顕子さんの『自転車でおいでよ』
キャロルキング『you`ve got friend』を歌ったんだ。
見ず知らずのオシャレな大人達の集まるお店の外のスロープで、震えながら歌った。
そこからはごくごくたまに行ったりしていたけどそこまで通うほどじゃなかった。
でも7年くらい前から頻繁にいくようになった。
僕にとってこの七年くらいは大きな時間で、
一人ものになったり 地震があったり であったり わかれたり。
当たり前だと思っている事はなんにもあたりまえじゃないと頭じゃわかっちゃいたのに、
体はなにも追いついてなくて、真っ暗の中を手探りで歩いては相手も自分も傷つけてばっかいた。
一人でいるのなんてへっちゃらだと思っていた自分がまったくそうじゃないことに気づいて、
ビッックリしてとまどって自分がゆるせなくて、ヘトヘトになってしまった。
そんな時支えてくれたのがこのお店だった。
夜中の1時頃に一人で部屋にいられなくなって、
その頃住んでいた国立から恵比寿の店まで車を40分ほどぶっとばして
閉店して片付けをしているお店の扉を開けて店長に『来ちゃった・・・』と言っても、
『お〜どうした?いいよ、飲んできな。』と言って
朝まで話を聞いてもらった事が何百回あっただろうか。
そしてそこには同じようにこの店のオレンジの灯に吸い寄せられて、
ぐでんぐでんになっていた常連客が沢山いた。
カウンターで沢山話をしたな。全部忘れたけど。。でもそれくらいのがよかったんだ。
皆の表情は沢山覚えてる。
泣いてる顔も 笑ってる顔も 寝てる顔も 不満そうな顔も イライラしてる顔も
あのオレンジの灯の下でまだ揺れてる。
K上さんがまた酔っぱらって椅子から転げ落ちてグラスを割ったよ、
T橋君が『も〜すっかりしてぇ・・』と呂律の回ってない小言を言っているよ
M子が会社の昇進試験の練習を不安気な顔でしているよ。
K美はすっかりキジムナーになってブサカワ犬のキーホルダーを見せてくるよ。
そこにほろ酔いのE子が突然扉を叩き割る勢いで入ってきて、
そのまま真っ直ぐチョップを僕にくらわしてきたよ。
かと思ったら十分後にはポロポロ泣いていた。
僕らのそのたびに店長が『はいはい。』と手を焼いてくれていた、
一度だって怒ったところ見た事ないよ。
奥さんのKちゃんはきっとそんなところに惚れたんだな。
ミュージシャンのO君が持ってきた買ったばかりのギターと、
僕もたまたま持っていたギターで一緒に弾くと気持ちよくお店に反響して、
そのうちどっちの音かもわからないくらいとけあったりした。
ある日なんてふらりと遊びにきた T置さんも閉店後のお店で僕らだけに歌ってくれた、
あの時はヤバかったな・・皆静かに、でも熱狂して聴いた。
物語がはじまるには最高の場所だった。そして最後はきまってぐでんぐでんになって
朝日の中バイバイできたような記憶が、、微かに。
突然のライブも沢山やらせてもらった、大きな場所じゃできないような実験的な事。
皆のテーブルの前にお皿を置いて、歌が気に入ったら小銭を入れていくライブの時は、
歌の間中そこかしこから小銭を投げ込む音がチャリンチャリンして皆で笑っちゃったな。
閉店の数日前にライブをやらせてもらった。ドレスコードは花一輪
言葉を色に変えて最後は店長とオーナーに花束にして送った。
もうこの場所が無くなるだなんて全然思えなくて、
皆いつも通り賑やかに楽しんでいたけど、どこかがちょっと違った。
いつもならもっと一曲ごとにギターや声の余韻が鳴っていたと思うのに、
音が鳴るそばからどこかへスッと消えてしまう。
何かが急いでいたんだ。
そんなことも全部わかりながらお店が うんうん と頷いていた気がした。
最終日もお店に行ってぐでんぐでんに呑んだ。
そんでなんだか変にテンションが高くなってしまい、熱く語ったりしてたぶん沢山絡んでしまった。
『音楽はさ〜』だとか『プロならさ〜』『オメーの事なんか知らねーんだよ』
だなんてもーー偉そうにでかい声で。。。はずかしい。
次の日の朝一つ一つ記憶がよみがえるたび『ひゃっっっ』『さーーーせーーーーーん』
『おーーーまいがーーー』『どぼじでーーー』『けしてーーけしてーー』
とシャワーを浴びながら悶え呟いていた。こんな事もう何年繰り返してんだろ。
朝がきて店長と真っ暗にした店内を眺めてたら涙が出た。
『よし!帰ろう』の声とともに皆でお店を後にした、
ヘロヘロのT橋君とK上さんを見送ってから何人かで富士そばへ。
40分ほどくっちゃべった後店を出るとすっかり街は目覚めていた、
駅から会社へ向かうサラリーマンの波でザワザワしていた。
交差点を曲がっていつものコンビニの前を見ると、
地面にうずくまって肉まんのようになったT橋くんがいた。
その横には駐車禁止のポールにしがみついたまま立ち寝しているK上さん。
ピッカピカの朝の青空の下、サラリーマンの波の中に恵比寿のシド&ナンシー。
その二人の景色があまりにも綺麗で僕らはしばらく遠くから眺めていた。大爆笑しながら。
僕らは何年もの間楽しみまくって、すっかり時間に置いてけぼりにされてたのかもしれないな。
二人を見てそんな風に思ったらちょっとだけ自慢げな気持ちになった。
いい時間だったじゃんよ〜!
四回乗車拒否されていた恵比寿のシド&ナンシーをなんとかタクシーに押し込んで家路についた。
カチャトラとカチャ夫とカチャ子に 感謝感謝。